| 1.ヒポクラテスの誓い (医師としての誓い) |
| 2.ジュネーブ宣言 (医師としての誓い) |
| 3.新ミレニアムの医師憲章 (医師の義務) |
| 4.ヘルシンキ宣言 (ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則) |
| 5.リスボン宣言 (患者の権利) |
| 6.医の倫理綱領 【日本医師会】 (医師のあるべき姿) |
| 7.医の倫理原則(1980年)【アメリカ医師会】 (医師のあるべき姿) |
1.ヒポクラテスの誓い
「医神アポロン、アスクレビオス、ヒギエイア、バナケイアおよびすべての男神と女神に誓う、私の能力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。この術を私に教えた人をわが親のごとく敬い、わが財を分って、その必要あるとき助ける。その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、彼らが学ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。そして書きものや講義その他あらゆる方法で私の持つ医術の知識をわが息子、わが師の息子、また医の規側にもとづき約束と誓いで結ばれている弟子どもに分かちあたえ、それ以外の誰にも与えない。
私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。頼まれても死に導くような薬を与えない。それを覚らせることもしない。同様に婦人を流産に導く道具を与えない。
純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。結石を切り出すことは神かけてしない。それを業とするものに委せる。いかなる患家を訪れるときもそれはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落のお行いを避ける。女と男、自由人と奴隷の違いを考慮しない。
医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。この誓いを守りつづける限り、私は、いつも医術の実施を楽しみつつ生きてすべての人から尊敬されるであろう。もしもこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい」
2.WMAジュネーブ宣言
1948年9月、スイス、ジュネーブにおける第2回WMA総会で採択
1968年8月、オーストラリア、シドニーにおける第22回WMA総会で修正
1983年10月、イタリア、ベニスにおける第35回WMA総会で修正
1994年9月、スウェーデン、ストックホルムにおける第46回WMA総会で修正
医師の一人として参加するに際し、
・ 私は、人類への奉仕に自分の人生を捧げることを厳粛に警う。
・ 私は、私の教師に、当然受けるべきである尊敬と感謝の念を捧げる。
・ 私は、良心と尊厳をもって私の専門職を実践する。
・ 私の患者の健康を私の第一の関心事とする。
・ 私は、私への信頼のゆえに知り得た患者の秘密を、たとえその死後においても尊重する。
・ 私は、全力を尽くして医師専門職の名誉と高貴なる伝統を保持する。
・ 私の同僚は、私の兄弟姉妹である。
・ 私は、私の医師としての職責と患者との間に、年齢、疾病や障害、信条、民族的起源、ジェンダー、国籍、所属政治団体、人種、性的オリエンテーション、或は、社会的地位といった事がらの配慮が介在することを容認しない。
・ 私は、たとえいかなる脅迫があろうと、生命の始まりから人命を最大限に尊重し続ける。また、人間性の法理に反して医学の知識を用いることはしない。
・ 私は、自由に名誉にかけてこれらのことを厳粛に誓う。
参考文献:「生命倫理学講義」,齋藤隆雄監修,日本評論社,1998/9/5初版発行
3.「新ミレニアムにおける医療プロフェッショナリズム:医師憲章」(新ミレニアムの医師憲章)
2002年2月初め,米国・欧州の内科4学会が共同で作成した「ヒポクラテスの誓い」の新ミレニアム版
<3つの根本原則>
@患者の利益追求:医師は,患者の利益を守ることを何よりも優先し,市場・社会・管理者からの圧力に屈してはならない
A患者の自律性:医師は,患者の自己決定権を尊重し,「インフォームド・ディシジョン」が下せるように,患者をempowerしなければならない。
B社会正義:医師には,医療における不平等や差別を排除するために積極的に活動する社会的責任がある。
<プロフ工ツショナルとしての10の責務>
@プロとしての能力についての貴務:個々の医師が生涯学習に励み,その能力・技能を維持するだけでなく,医師団体はすべての医師が例外なくその能力・適性を維持するための仕組みを作らなければならない。
A患者に対して正直である責務:治療上の意思決定ができるように,患者をempowerするために,情報を正直に伝えなければならない。特に医療過誤については,患者に速やかに情報開示することが重要であるだけでなく,過誤の報告・分析体制についても整備しなければならない。
B患者の秘密を守る責任:医療情報の電子化の進展,遺伝子診断の技術進歩が進む中,患者の秘密の厳守は特に重要である。
C患者との適切な関係を維持する責務:患者の弱い立場を悪用することがあってはならない。特に,性的・財政的に患者を搾取してはならない。
D医療の質を向上させる義務:医師および医師団体は医療の質を恒常的に向上させる義務を負う。医療の質には,医療過誤防止・過剰診療抑制・アウトカムの最適化が含まれる。
E医療へのアクセスを向上させる責務:医師および医師団体は医療へのアクセスの平等性を確保することに努めなければならない。患者の教育程度,法体制,財政状態,地理的条件,社会的差別などが,医療へのアクセスに影響してはならない。
F医療資源の適正配置についての責務:医師には,限られた医療資源を,「コスト・エフェクティブネス」に配慮して,適正配置する義務がある(註)。過剰診療は医療資源の無駄使いとなるだけでなく,愚者を無用な危険にさらすことになる。
G科学的知識への責務:医価には,科学的知識を適切に使用するとともに,科学としての医学を進歩させる義務がある。
H「利害衝突」に適正に対処し信頼を維持する責務:保険会社や製薬・医療機器企業などの営利企業との関係が,本来の職業的責務に影響する恐れがあることを認識するだけでなく,「利害衝突」に関する情報を開示する義務がある。
I専門職に伴う責任を果たす責務:専門職に従事するものの責任として,職業全体の信頼を傷つけてはならない。お互いに協力することはもとより,専門職としての信頼を傷つけた医師には懲戒を加えることも必要である。
李 啓充氏訳
週間医学会新聞,2002/4/1
4.ヘルシンキ宣言
ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則
1964年6月、フィンランド、ヘルシンキの第18回WMA総会で採択
1975年10月、東京の第29回WMA総会で修正
1983年10月、イタリア、ベニスの第35回WMA総会で修正
1989年9月、香港、九龍の第41回WMA総会で修正
1996年10月、南アフリカ共和国、サマーセットウエストの第48回WMA総会で修正
2000年10月、英国、エジンバラの第52回WMA総会で修正
A. 序言
1. 世界医師会は、ヒトを対象とする医学研究に関わる医師、その他の関係者に対する指針を示す倫理的原則として、ヘルシンキ宣言を発展させてきた。ヒトを対象とする医学研究には、個人を特定できるヒト由来の材料及び個人を特定できるデータの研究を含む。
2. 人類の健康を向上させ、守ることは、医師の責務である。医師の知識と良心は、この責務達成のために捧げられる。
3. 世界医師会のジュネーブ宣言は、「私の患者の健康を私の第一の関心事とする」ことを医師に義務づけ、また医の倫理の国際綱領は、「医師は患者の身体的及び精神的な状態を弱める影響をもつ可能性のある医療に際しては、患者の利益のためにのみ行動すべきである」と宣言している。
4. 医学の進歩は、最終的にはヒトを対象とする試験に一部依存せざるを得ない研究に基づく。
5. ヒトを対象とする医学研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければならない。
6. ヒトを対象とする医学研究の第一の目的は、予防、診断及び治療方法の改善並びに疾病原因及び病理の理解の向上にある。最善であると証明された予防、診断及び治療方法であっても、その有効性、効果、利用し易さ及び質に関する研究を通じて、絶えず再検証されなければならない。
7. 現在行われている医療や医学研究においては、ほとんどの予防、診断及び治療方法に危険及び負担が伴う。
8. 医学研究は、すべての人間に対する尊敬を深め、その健康及び権利を擁護する倫理基準に従わなければならない。弱い立場にあり、特別な保護を必要とする研究対象集団もある。経済的及び医学的に不利な立場の人々が有する特別のニーズを認識する必要がある。また、自ら同意することができないまたは拒否することができない人々、強制下で同意を求められるおそれのある人々、研究からは個人的に利益を得られない人々及びその研究が自分のケアと結びついている人々に対しても、特別な注意が必要である。
9. 研究者は、適用される国際的規制はもとより、ヒトを対象とする研究に関する自国の倫理、法及び規制上の要請も知らなければならない。いかなる自国の倫理、法及び規制上の要請も、この宣言が示す被験者に対する保護を弱め、無視することが許されてはならない。
B. すべての医学研究のための基本原則
10. 被験者の生命、健康、プライバシー及び尊厳を守ることは、医学研究に携わる医師の責務である。
11. ヒトを対象とする医学研究は、一般的に受け入れられた科学的原則に従い、科学的文献の十分な知識、他の関連した情報源及び十分な実験並びに適切な場合には動物実験に基づかなければならない
12. 環境に影響を及ぼすおそれのある研究を実施する際の取扱いには十分な配慮が必要であり、また研究に使用される動物の生活環境も配慮されなければならない。
13. すべてヒトを対象とする実験手続の計画及び作業内容は、実験計画書の中に明示されていなければならない。この計画書は、考察、論評、助言及び適切な場合には承認を得るために、特別に指名された倫理審査委員会に提出されなければならない。この委員会は、研究者、スポンサー及びそれ以外の不適当な影響を及ぼすすべてのものから独立であることを要する。この独立した委員会は、研究が行われる国の法律及び規制に適合していなければならない。委員会は進行中の実験をモニターする権利を有する。研究者は委員会に対し、モニターの情報、特にすべての重篤な有害事象について情報を報告する義務がある。研究者は、資金提供、スポンサー、研究関連組織との関わり、その他起こり得る利害の衝突及び被験者に対する報奨についても、審査のために委員会に報告しなければならない。
14. 研究計画書は、必ず倫理的配慮に関する言明を含み、またこの宣言が言明する諸原則に従っていることを明示しなければならない。
15. ヒトを対象とする医学研究は、科学的な資格のある人によって、臨床的に有能な医療担当者の監督下においてのみ行われなければならない。被験者に対する責任は、常に医学的に資格のある人に所在し、被験者が同意を与えた場合でも、決してその被験者にはない。
16. ヒトを対象とするすべての医学研究プロジェクトは、被験者または第三者に対する予想し得る危険及び負担を、予見可能な利益と比較する注意深い評価が事前に行われていなければならない。このことは医学研究における健康なボランティアの参加を排除しない。すべての研究計画は一般に公開されていなければならない。
17. 医師は、内在する危険が十分に評価され、しかもその危険を適切に管理できることが確信できない場合には、ヒトを対象とする医学研究に従事することを控えるべきである。医師は、利益よりも潜在する危険が高いと判断される場合、または有効かつ利益のある結果の決定的証拠が得られた場合には、すべての実験を中止しなければならない。
18. ヒトを対象とする医学研究は、その目的の重要性が研究に伴う被験者の危険と負担にまさる場合にのみ行われるべきである。これは、被験者が健康なボランティアである場合は特に重要である。
19. 医学研究は、研究が行われる対象集団が、その研究の結果から利益を得られる相当な可能性がある場合にのみ正当とされる。
20. 被験者はボランティアであり、かつ十分説明を受けた上でその研究プロジェクトに参加するものであることを要する。
21. 被験者の完全無欠性を守る権利は常に尊重されることを要する。被験者のプライバシー、患者情報の機密性に対する注意及び被験者の身体的、精神的完全無欠性及びその人格に関する研究の影響を最小限に留めるために、あらゆる予防手段が講じられなければならない。
22. ヒトを対象とする研究はすべて、それぞれの被験予定者に対して、目的、方法、資金源、起こり得る利害の衝突、研究者の関連組織との関わり、研究に参加することにより期待される利益及び起こり得る危険並びに必然的に伴う不快な状態について十分な説明がなされなければならない。対象者はいつでも報復なしに、この研究への参加を取りやめ、または参加の同意を撤回する権利を有することを知らされなければならない。対象者がこの情報を理解したことを確認した上で、医師は対象者の自由意志によるインフォームド・コンセントを、望ましくは文書で得なければならない。文書による同意を得ることができない場合には、その同意は正式な文書に記録され、証人によって証明されることを要する。
23. 医師は、研究プロジェクトに関してインフォームド・コンセントを得る場合には、被験者が医師に依存した関係にあるか否か、または強制の下に同意するおそれがあるか否かについて、特に注意を払わなければならない。もしそのようなことがある場合には、インフォームド・コンセントは、よく内容を知り、その研究に従事しておらず、かつそうした関係からまったく独立した医師によって取得されなければならない。
24. 法的無能力者、身体的若しくは精神的に同意ができない者、または法的に無能力な未成年者を研究対象とするときには、研究者は適用法の下で法的な資格のある代理人からインフォームド・コンセントを取得することを要する。これらのグループは、研究がグループ全体の健康を増進させるのに必要であり、かつこの研究が法的能力者では代替して行うことが不可能である場合に限って、研究対象に含めることができる。
25. 未成年者のように法的無能力であるとみられる被験者が、研究参加についての決定に賛意を表することができる場合には、研究者は、法的な資格のある代理人からの同意のほかさらに未成年者の賛意を得ることを要する。
26. 代理人の同意または事前の同意を含めて、同意を得ることができない個人被験者を対象とした研究は、インフォームド・コンセントの取得を妨げる身体的/精神的情況がその対象集団の必然的な特徴であるとすれば、その場合に限って行わなければならない。実験計画書の中には、審査委員会の検討と承認を得るために、インフォームド・コンセントを与えることができない状態にある被験者を対象にする明確な理由が述べられていなければならない。その計画書には、本人あるいは法的な資格のある代理人から、引き続き研究に参加する同意をできるだけ早く得ることが明示されていなければならない。
27. 著者及び発行者は倫理的な義務を負っている。研究結果の刊行に際し、研究者は結果の正確さを保つよう義務づけられている。ネガティブな結果もポジティブな結果と同様に、刊行または他の方法で公表利用されなければならない。この刊行物中には、資金提供の財源、関連組織との関わり及び可能性のあるすべての利害関係の衝突が明示されていなければならない。この宣言が策定した原則に沿わない実験報告書は、公刊のために受理されてはならない。
C. メディカル・ケアと結びついた医学研究のための追加原則
28. 医師が医学研究をメディカル・ケアと結びつけることができるのは、その研究が予防、診断または治療上価値があり得るとして正当であるとされる範囲に限られる。医学研究がメディカル・ケアと結びつく場合には、被験者である患者を守るためにさらなる基準が適用される。
29. 新しい方法の利益、危険、負担及び有効性は、現在最善とされている予防、診断及び治療方法と比較考量されなければならない。ただし、証明された予防、診断及び治療方法が存在しない場合の研究において、プラシーボまたは治療しないことの選択を排除するものではない。
30. 研究終了後、研究に参加したすべての患者は、その研究によって最善と証明された予防、診断及び治療方法を利用できることが保障されなければならない。
31. 医師はケアのどの部分が研究に関連しているかを患者に十分説明しなければならない。患者の研究参加の拒否が、患者と医師の関係を断じて妨げるべきではない。
32. 患者治療の際に、証明された予防、診断及び治療方法が存在しないときまたは効果がないとされているときに、その患者からインフォームド・コンセントを得た医師は、まだ証明されていないまたは新しい予防、診断及び治療方法が、生命を救い、健康を回復し、あるいは苦痛を緩和する望みがあると判断した場合には、それらの方法を利用する自由があるというべきである。可能であれば、これらの方法は、その安全性と有効性を評価するために計画された研究の対象とされるべきである。すべての例において、新しい情報は記録され、また適切な場合には、刊行されなければならない。この宣言の他の関連するガイドラインは、この項においても遵守されなければならない。
日本医師会訳
5.患者の権利に関するWMAリスボン宣言
1981年9月/10月、ポルトガル、リスボンにおける第34回WMA総会で採択
1995年9月、インドネシア、バリ島における第47回WMA総会で修正
序 文
医師および患者ならびにより広い社会との間の関係は、近年著しい変化を受けてきた。医師は、常に自らの良心に従って、また常に患者の最善の利益に従って行動すべきであると同時に、患者の自律性と正義を保証するために同等の努力を払わねばならない。以下に掲げる宣言は、医師が是認し、推進する患者の主要な権利のいくつかを述べたものである。医師、および医療従事者または医療組織は、この権利を認識し、擁護していく上で共同の責任を担っている。立法、政府の行動、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合は、医師はこの権利を保証ないし回復させる適切な手段を講じなければならない。
人間を対象とした生物医学的研究−非治療的生物医学的研究を含む−との関連においては、被験者は通常の治療を受けている患者と同様の権利と配慮を受ける権利がある。
原 則
1.良質の医療を受ける権利
a. すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有する。
b. すべての患者は、いかなる外部干渉も受けずに自由に臨床上および倫理上の判断を行なうことを認識している医師からケアを受ける権利を有する。
c. 患者は、常にその最善の利益に即して治療を受けるものとする。患者が受ける治療は、一般的に受け入れられた医学的原則に沿って行われるものとする。
d. 医療の質の保証は、常にヘルスケアのひとつの要素でなければならない。特に医師は、医療の質の擁護者たる責任を担うべきである。
e. 供給を限られた特定の治療に関して、それを必要とする患者間で選定を行わなければならない場合は、そのような患者はすべて治療を受けるための公平な選択手続きを受ける権利がある。その選択は、医学的基準に基づき、かつ差別なく行われなければならない。
f. 患者は、ヘルスケアを継続して受ける権利を有する。医師は、医学的に必要とされるケアを行うにあたり、患者を治療する他のヘルスケア提供者と協力する責務を有する。医師は、現在と異なるケアを行うために患者に対して適切な援助と十分な機会を与えることができないならば、今までの治療が医学的に引き続き必要とされる限り、患者の治療を中断してはならない。
2.選択の自由の権利
a. 患者は、民間、公的部門を問わず、担当の医師、病院、あるいは保健サービス機関を自由に選択し、また変更する権利を有する。
b. 患者はいかなる治療段階においても、他の医師の意見を求める権利を有する。
3.自己決定の権利
a. 患者は、自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有する。医師は、患者に対してその決定のもたらす結果を知らせるものとする。
b. 精神的に判断能力のある成人の患者は、いかなる診断上の手続きないし治療に対しても、同意を与えるかまたは差し控える権利を有する。患者は自分自身の決定を行う上で必要とされる情報を得る権利を有する。患者は、検査ないし治療の目的、その結果が意味すること、そして同意を控えることの意味について明確に理解すべきである。
c. 患者は医学研究あるいは医学教育に参加することを拒絶する権利を有する。
4.意識のない患者
a. 患者が意識がないか、あるいは自分の意思を表わすことができない場合、それが法的な問題に関わる場合は、法律上の権限を有する代理人から、可能な限り必ずインフォームド・コンセントを得なければならない。
b. 法律上の権限を有する代理人がおらず、患者に対する医学的侵襲が緊急に必要とされる場合は、患者の同意があるものと推定する。ただし、その患者の事前の確固たる意思表示あるいは信念に基づいて、その状況における医学的侵襲に対し同意を拒絶することが明白であり、かつ疑いのない場合を除く。
c. しかしながら、医師は自殺企図により意識を失っている患者の生命を救うよう常に努力すべきである。
5.法的無能力の患者
a. 患者が未成年者あるいは法的無能力者であるならば、法的な問題に関わる場合には、法律上の権限を有する代理人の同意が必要とされる。その場合であっても、患者は自らの能力の可能最大限の範囲で意思決定を行わなければならない。
b. 法的無能力の患者が合理的な判断をし得る場合、その意思決定は尊重されねばならず、かつ患者は法律上の権限を有する代理人に対する情報の開示を禁止する権利を有する。
c. 患者の代理人で法律上の権限を有する者、あるいは患者から権限を与えられた者が、医師の立場から見て、患者の最善の利益に即して行っている治療を禁止する場合、医師は、関係する法律または他の規定により、決定に対して異議を申し立てるべきである。救急を要する場合、医師は患者の最善の利益に即して行動することを要する。
6.患者の意思に反する処置
患者の意思に反する診断上の処置あるいは治療は、特別に法律が認めるか医の倫理の諸原則に合致する場合には、例外的な事例としてのみ行うことができる。
7.情報を得る権利
a. 患者は、いかなる医療上の記録であろうと、そこに記載されている自己の情報を受ける権利を有し、また症状についての医学的事実を含む健康状態に関して十分な説明を受ける権利を有する。しかしながら、患者の記録に含まれる第三者についての機密情報は、その者の同意なくしては患者に与えてはならない。
b. 例外的に、その情報が患者自身の生命あるいは健康に著しい危険をもたらす恐れがあると信ずるべき十分な理由がある場合は、情報は患者に対し与えなくともよい。
c. 情報は、その患者をとりまく文化に適した方法で、かつ患者が理解できる方法で与えられなければならない。
d. 患者は、他人の生命の保護に必要とされない限り、その明確な要求に基づき情報を知らされない権利を有する。
e. 患者は、必要があれば自分に代わって情報を受ける人を選択する権利を有する。
8.機密保持を得る権利
a. 患者の健康状態、症状、診断、予後および治療について身元を確認し得るあらゆる情報、ならびにその他個人のすべての情報は、患者の死後も機密は守られなければならない。ただし、患者の子孫には、自らの健康上のリスクに関わる情報を得る権利もあり得る。
b. 機密情報は、患者が明確な同意を与えるか、あるいは法律に明確に規定されている場合に限り開示されることができる。情報は、患者が明らかに同意を与えていない場合は、厳密に「知る必要性 need to know」 に基づいてのみ、他のヘルスケア提供者に開示することができる。
c. 身元を確認し得るあらゆる患者のデータは保護されねばならない。データの保護のために、その保管形態は適切になされなければならない。身元を確認し得るデータが導き出せるようなその人の人体を形成する物質も同様に保護されねばならない。
9.健康教育を受ける権利
すべての人は、個人の健康と保健サービスの利用について、情報を与えられたうえでの選択が可能となるような健康教育を受ける権利がある。この教育には、健康的なライフスタイルや、疾病の予防および早期発見についての手法に関する情報が含まれていなければならない。健康に対するすべての人の自己責任が強調されるべきである。医師は教育的努力に積極的に関わっていく義務がある。
10.尊厳を得る権利
a. 患者は、その文化観および価値観を尊重されるように、その尊厳とプライバシーを守る権利は、医療と医学教育の場において常に尊重されるものとする。
b. 患者は、最新の医学知識に基づき苦痛の除去を受ける権利を有する。
c. 患者は、人間的な終末期ケアを受ける権利を有し、またできる限り尊厳を保ち、かつ安楽に死を迎えるためのあらゆる可能な助力を与えられる権利を有する。
11.宗教的支援を受ける権利
患者は、信仰する宗教の聖職者による支援を含む精神的、かつ道徳的慰問について諾否を決める権利を有する。
6.医の倫理綱領(日本医師会)
医学および医療は、病める人の治療はもとより、人びとの健康の維持、もしくは増進を図るもので、医師は責任の重大性を認識し、人類愛を基にすべての人に奉仕するものである。
1.医師は生涯学習の精神を保ち、つねに医学の知識と技術の習得に努めるとともに、その進歩・発展に尽くす。
2.医師はこの職業の尊厳と責任を自覚し、教養を深め、人格を高めるように心掛ける。
3.医師は医療を受ける人びとの人格を尊重し、やさしい心で接するとともに、医療内容についてよく説明し、信頼を得るように努める。
4.医師は互いに尊敬し、医療関係者と協力して医療に尽くす。
5.医師は医療の公共性を重んじ、医療を通じて社会の発展に尽くすとともに、法規範の遵守および法秩序の形成に努める。
6.医師は医業にあたって営利を目的としない。
平成12年4月21日採択
於 社団法人日本医師会 第102回定例代議員会
7.医の倫理原則(1980年)(アメリカ医師会)
<前文>
医業専門家集団は長い間にわたり、主として患者の利益のために展開されてきた倫理宣言の総体を承認してきた。この専門家集団の一員として.医師は患者に対する責任のみならず、また社会や他の保健職業専門家及び自己への責任を認めなければならない。米国医師会により採択された次の諸原則は法律ではなく、医師の名誉ある行動にとって本質的なことを定めている行動の基準なのである。
T.医師は人間の尊厳への同情の念を持って適切な医療を与えることに献身しなければならない。
U.医師は患者及び同僚医師に対し正直に対処し、人格またはその能力に欠陥を持った医師及び詐欺、または欺罔に携わる医師を明らかにすべく努めなければならない。
V.医師は法律を遵守するとともに、更に患者の最大の利益に反するような諸要件の変更に努力すべき責任を認めなければならない。
W.医師は患者の権利、同僚医師及び他の保健職業専門家の権利を尊重しなければならない。また、法の制約の範囲内で患者の秘密を擁護しなければならない。
V.医師は科学的知識の学習、応用を、…推進継続しなければならない。また相互に関連する情報を一般の人びとに得させ、必要に応じ他の保健職業専門家の持つ能力を活用しなければならない。
Y.医師は患者に適切な看護を供与するに当たり、救急の場合を除き、業務を遂行する相手方、共に業務を行う者、及び医療を供与する環境を、自由に選択できるものとする。
Z.医師はコミュニテイ(地域共同社会)の改善に貢献する諸活動に参加すべき責任を認めなければならない。
(木村利人訳:1980)