平成14年度 精神科看護研修会 報告書
日時:平成14年6月24日,25日
平成14年7月1日,2日
場所:神奈川県精神保健福祉センター
4東病棟 引地 美幸
目 次
T.日本の精神医療の歴史と流れ 【講師:戸塚山谷病院長 畑 俊治】
U.躁うつ病・非定型精神病 【講師:愛光病院顧問 牧野 利夫】
V.人格障害 【講師:立教大学教授 町沢 静夫】
W.精神科薬物療法と副作用 【講師:藤沢病院長 石井 紀夫】
X.事故防止のポイント 【講師:大和病院長 石井 一彦】
Y.精神分裂病 −疾患理解と治療− 【講師:横浜舞岡病院 診療部長 加瀬 明彦】
Z.高齢者の痴呆 【講師:常盤台病院院長 清水 信】
[.薬物・アルコール依存症について 【講師:神奈川病院長 佐伯 彰】
\.精神科看護の実際 【講師:神奈川県立看護教育大学校附属看護専門学校 内山 繁樹】
].グループ討議と全体討議
感 想
T.日本の精神医療の歴史と流れ 【講師:戸塚山谷病院長 畑 俊治】
1.「精神科保健福祉法」に関する最低限の知識
・ 入院形式
1) 任意入院
2) 医療保護入院
3) 措置入院(緊急措置入院を含む)
4) 応急入院
※任意入院以外は、精神保健指定医の診察が必要
・ 入院に際し書面告知が必要であり、障害者の人権が記されている。本人に読んで説明し手渡す。
・ 全ての病棟に公衆電話を設置し、24時間使えるようにする。
・ 全ての病棟に患者の見やすい場所に所轄の保健所、人権擁護委員会、県・政令市の衛生局の
電話番号を掲げなければならない。
・ 行動制限には、隔離と身体拘束がある。
1) 隔 離−12時間までは医師の判断でできるが、超える場合は精神保健指定医の判断が必要。
(カルテ記載義務)1日1回以上の診察を要する。
2) 身体拘束−指定医でなければできない。(カルテ記載義務)
1日頻回の診察を要する。
車椅子固定が身体拘束となるか厚生労働省では明確な答えを出していないが、
一般には半日〜1日を身体拘束とみている。
(輸液は2本分の時間は身体拘束にはあたらないと考えている。)
・ 任意入院患者は原則的に開放処遇する。
治療上必要な場合は、外出制限の書面告知か患者の「希望書」をもらい、カルテに添付する。
・ 任意入院患者から退院の希望があれば、速やかに主治医に連絡し退院とするか、指定医の
診察により治療上必要な場合は、退院制限(72時間)の書面告知をする。その間に治療方針を
決める。
・ 患者より、退院・処遇改善の請求が衛生局に提出された場合には、真摯に対応し、精神医療
審査会の判断を待つ。
2.精神科救急医療システム
今まで22時間体制であったが、平成14年より24時間体制となった。
1)自傷他害の恐れがある精神障害者に対する救急医療
14年度(24時間体制)
・通報受付窓口 8:30〜8:30
・職員による調査 8:30〜8:30
・移送 8:30〜8:30
・24時間入院受入
協力病院による入院受入
平日昼間 8:30〜18:30
基幹病院による入院受入
夜間 基幹病院 17:00〜8:30
準基幹病院 17:00〜22:00
休日昼間 基幹病院 8:30〜17:00
※基幹病院:北里病院、横浜市大病院、川崎市立川崎病院、芹香病院、昭和医大横浜市北部病院
2)自傷他害の恐れがない精神障害者に対する救急医療
14年度(22時間体制)
昼間(平日)協力病院 8:30〜17:00
昼間(休日)協力病院 8:30〜17:00
夜間 芹香病院 17:00〜22:00
U.躁うつ病・非定型精神病 【講師:愛光病院顧問 牧野 利夫】
1.躁うつ病とは
躁状態あるいはうつ状態という「感情の障害」が交代的あるいは周期的に出現し、病気経過後に人格欠陥を残さず完全に回復する。
2.分類
双極性 :躁とうつを両方持っている
単極性 :躁だけ、うつだけとどちらか一方
周期性と単発性がある
非定型うつ状態
混合型 :躁の時うつ、うつの時躁の症状が出現する
分裂病型 :非定型精神病に似ている
神経症型 :人格障害(うつ型)が多い
身体症状の強い型 :基礎にうつがあり、身体症状が目立つ
意識障害を伴う型 :基礎にうつがあり、非定型精神病に入るものもある
アルコール・薬物依存を伴う型 :基礎にうつがあり、最近多い
急速交代型 :躁、うつが年に4回以上交代して起こる
抗うつ剤が多く使用されるようになり、目立って多くなってきている
3.躁うつ病の病前性格
循環気質 :社交的、善良、親切
執着気質 :感情の持続的緊張が特徴で、凝り性、正直、几帳面
4.躁病の基本症状
感情の変化 :爽快気分・感激性・易怒性・尊大・自信過剰
意志行動の変化 :多弁多動・無遠慮・大声・外出徘徊・浪費・脱線行為
思考の変化 :観念ほんいつ・楽天的・注意散漫・判断軽率
躁病性の妄想:誇大妄想・発明妄想・宗教妄想
身体の変化 :睡眠障害・性欲亢進・体重減少
5.躁病の看護
刺激の少ない環境(興奮時は個室・保護室対応)
感情を刺激しない
強い語調で注意や指示をしない
議論や屁理屈をうまくかわすように工夫する
話題を転換する
看護者が感情的になってはいけない
6.うつ病の基本症状
感情の変化 :気分の沈うつ化・悲哀・憂うつ・孤独・さびしさ・無感情・不安・怒りっぽさ
意志行動の変化 :行動量低下・動作緩慢・億劫・意欲低下
思考の変化 :思考抑制・緩慢・記憶力低下・判断力低下
うつ病性の妄想:心気妄想・貧困妄想・罪業妄想
身体の変化 :疲労・食欲不振・体重低下・睡眠障害・性欲減退・知覚異常
自律神経症状・頭痛・動悸
1)うつ病の4つの中核症状
@抑うつ感
A気分の日内変動
B早朝覚醒
C社会環境への関心減退
2)うつ病、うつ状態と自殺
約30%に自殺企図
気分変動の激しい初期・回復期に多い(躁からうつに変わる時など)
自殺の予防
@ 自殺の予告徴候に注意
A 休養第一、叱咤激励しない
B 一人にさせない
C 親しい人の死、自殺、別離、毎日などが契機になることがある
D 家族を中心とした人間関係の確立
7.うつ病の看護
休養安静が主
自殺念慮に注意
叱咤激励は禁物 → 必ず治ることを保証する
あせらず、あきらめずに待つことを繰り返し伝える
初期、回復期はできるだけ一人にしない
※躁状態、うつ状態に限らず、患者の看護や扱いについてスタッフが一致した方針を持つ。
8.非定型精神病
分裂病、躁うつ病、てんかんのいずれにも分類できない。発病は急性で、症状は分裂病様症状を示すが、多くは意識障害を伴う。
症状:急性幻覚妄想状態、錯乱(せん妄)、夢幻様状態。
予後は一般に良く、人格欠陥を残すことはない。
興奮時は抗精神病薬、躁うつ病薬を使用する。
病状は厳しいが、短期間で治まる。
発症には何らかのきっかけがある。
V.人格障害 【講師:立教大学教授 町沢 静夫】
人格障害を、DSM-WではクラスターA・B・Cの3グループに分ける
1.クラスターA
遺伝的に分裂病の素質を持っている人が多い
自閉的で妄想をもちやすく、神秘的な傾向がある
対人関係がうまくいかない
かなり遺伝が関係し、ストレスはそれほど強く影響しない
1)分裂病質人格障害
環境や人の意見、まなざしに対し割合鈍感で、ストレスを感じにくく、影響も受けにくい
2)妄想性人格障害
特に対人関係のストレスに弱く、ストレスが強いほど病理性が強まる
3)分裂病型人格障害
遺伝的に分裂病になりやすく、ストレスが引き金になり発病するケースが多く見られる
2.クラスターB
感情的な混乱の激しい人格障害
精神的にとても不安定で、ストレスにはかなり弱い
1)反社会的人格障害
犯罪など反社会的な行動をとる
穏やかな環境にいると(ストレスが少なくなれば)人格障害には発展しにくい
2)境界性人格障害
人格障害の中できわめてストレスと関係が強い(特に弱いのは愛情に関わるストレス)
3)自己愛性人格障害
自分を特別な人間と信じている
自尊心が傷つけられるようなストレスに弱く、激しい怒りを感じる
その怒りが時にはうつ病、身体表現性障害、不安障害などに変化することがある
4)演技性人格障害
自己中心的で、人の注目を浴びていなければ我慢できない
年齢を重ね、容貌が衰えたり、能力が評価されないとストレスを受け病的特徴が現れる
うつ病、アルコール依存症になりやすい
3.クラスターC
不安や恐怖感が非常に強い人格障害
1)回避性人格障害
ストレスと密接に結びついている
傷つきやすく、自分が受け入れられるか非常に敏感で、周囲の対応にストレスを感じやすい
時にうつ病、閉じこもりになってしまうケースがある
(若い人に増えており、不登校、出社拒否、閉じこもりの半数がこの人格障害)
2)依存性人格障害
甘えが強いために人の顔色をうかがい、何でも人に頼ろうとする
頼れる人がいなくなると、うつ病、不安障害になりやすい
3)強迫性人格障害
完全癖にとらわれ、柔軟性に欠ける
自分の気がすむように事が進んできる間は問題ないが、他者の侵入やアクシデントがあると
ストレスを受け、うつ病、不安障害になりやすい
W.精神科薬物療法と副作用 【講師:藤沢病院長 石井 紀夫】
薬物療法は最も重要で効果的な治療
向精神薬 → 精神に作用し治療する(精神治療薬)
メカニズム:脳の主として神経伝達物質に作用し、機能を変える
ドーパミン、抗ドーパミン作用、セロトニン:これらのシナプスにおけるブロックで抗精神病治療をする
1.抗精神病薬(薬物依存なし)
主として分裂病の治療に使用 → 幻聴・妄想・興奮・躁病・せん妄にも使用する
クロルプロマジン(コントミン、ウィンタミン etc.)
ハロペリドール(セレネース、リントン、ブロトボン、ハロステン etc.)
デロ剤(ハロマンス、ネオペリドール):拒薬のある患者に筋注で使用1ヶ月の効果がある
水薬(セレネース):拒薬時、一時的にジュースや味噌汁などに入れて使用
1)作用
ドーパミンを抑える
2)副作用
錐体外路系症状(パーキンソン症状)→抗パ剤で治る
アカジア
じっとしていられない、足がムズムズする。着座不能症、そわそわうろうろ(症状との区別が難
しい)
遅発性ジスキネジア(薬物の長期使用で起こる)→難治性で抗パ剤無効
口のモグモグ、舌のクルクル、手足や体幹の動き(船漕ぎ動作)
悪性症候群(ドーパミン作用の薬の投与、抗精神薬の中止をしなければ死亡する)
身体的危険因子として、疲弊、精神運動興奮、脱水症状、高熱、筋強剛、意識変容、自律神
経系の亢進→抗パ作用のため
上記の薬剤は、慢性状態の分裂病などには効果が少ない。
無為、自閉、感情鈍麻などに新薬が開発されている。
非定型抗精神薬
リスパーダ、セロクエル、ルーラン、ジプレキサ
多くはSDAといわれ、ドーパミンだけでなくセロトニンも抑える作用がある
副作用が少なく、無為、自閉、感情鈍麻などに効果的といわれる
抗精神薬の服薬方法
初期に大量投与し、症状が落ち着いてきたら少量を維持する
※根治ではなく対処療法 → 内服をやめると3〜6ヶ月で80%が再発する
2.抗うつ薬
1)三環系うつ薬
抑うつ気分を改善し、抑制をなくす
投与開始後、副作用が出現するが、効果がすぐに出ない
(2週間は必ず内服、最低2〜3ヶ月内服)
副作用:抗うつ剤の中で最も多い。口渇、便秘、排尿障害(特に前立腺肥大がある人)。
薬品名:トリプタノール、トフラニール
2)四環系うつ薬
副作用が比較的少ないが、効果が弱い(老人には使用しやすい)
薬品名:ルジオミール、テトラミド、テシプール
(テトラミドは老人の夜間せん妄に非常に効果がある)
3)その他の抗うつ薬
薬品名:ドグマチール(正確には、抗精神病薬であるが、抗うつ薬としても効果がある)
4)新しい抗うつ薬
SSRT(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)
薬品名→フルボキサミン(ルボックス) 副作用が少ない
3.気分安定剤
躁うつ病相の予防
1)リーマス
即効性ではない
有効血中濃度の範囲が狭い→中毒を起こしやすい(痙攣、意識消失)
少量持続すると予防効果がある
副作用:手のふるえ
2)テグレトール、デパケン
本来、てんかんの薬であるが、分裂病の興奮に使用できる
持続して使用すると予防効果がある
副作用:発疹、白血球減少、ふらつき、ねむけ
4.抗不安薬
1)ジアゼパム
セルシン、ホリゾン、セレナミン、ダイアップ(シロップ、坐薬あり)
※筋弛緩作用があるため、老人に投与する場合注意が必要→転倒する危険がある
副作用:急に中止すると離脱症状を起こす(イライラ、不眠、痙攣、せん妄)
5.その他の精神治療薬
精神刺激薬
1)メタンフェタミン(覚せい剤)
ドーパミン作動薬
長期使用すると幻覚妄想が起こる
2)メチルフェンデート(精神刺激剤)
ナルコレプシー(脱力発作、入民時幻覚)に使用する
過動児にも使用する
6.睡眠薬
1)バルビツール系
2)ベンゾジアゼピン系(現在多く使用されている)
ベンザリン、ユーロジン、サイレース、ロヒプノール(中間半減期群)
リスミー、レンドルミン、デパス(短期半減期群)
ハルシオン(超短期半減期群)
3)その他
ヒプノジン、アモバン
1)2)ともに離脱症状を起こす
短期半減期群は慣れがきやすく、リバウンド(不眠・悪夢)を起こしやすい
ハルシオンは健忘症状を起こす
血中濃度の立ち上がり時に自分のしたことを覚えていない
X.事故防止のポイント 【講師:大和病院長 石井 一彦】
1.初心者に見られる人的要因
1)知覚情報の取捨選択がうまくいかない − 何が重要であるかの選択
2)知覚情報過剰になり混乱してしまう
3)情報の統合化、時系列的処理ができない
4)知覚感度が低い − 知覚情報の変動率がわからず、大きな偏位になって気づく
5)短期記憶を使用する余裕がない
6)記憶量が少なく、不確実である
7)記憶が円滑に引き出せない − 覚えているはずなのに思い出せない
8)決心がつかずに迷う − 自信がない
9)予測の幅が狭い − すぐ直前のことしか考えられない
10)最も重要なことに焦点をしぼり、他の不必要なことをやらないことが下手
11)最悪の状態になってから気づく
12)操作が遅れ、円滑さを欠き、ますます忙しい状態となる
13)外部からの割り込みで全体の手順が乱れてしまう
14)いつも余裕がなく、精神緊張状態にすぐ陥る
2.熟練者に見られる人的要因
1)同じ仕事をしている :型にはまりすぎる
2)長年繰り返し実施している :慣れ過ぎている
3)仕事の内容をよく知っている :憶測が多く真剣に考えない
4)苦労せずに実施できる :気軽に、不注意に操作する
5)円滑に実施できる :割り込みに弱い
6)巧みに実施できる :自惚れが生じる
7)誤りが少ない :誤っても気づかない
8)早い速度でできる :操作の抜けやとびが生じる
9)余裕がある :遊びが多く、不必要なことをする
10)不必要なことはやらない :気配りが悪くなる
11)長時間実施できる :意識水準が低くなる
12)からだが覚えている :うまく教えられない
13)その仕事に興味がある :他のことに興味を持たず狭視野となる
Y.精神分裂病 −疾患理解と治療− 【講師:横浜舞岡病院 診療部長 加瀬 明彦】
1.頻度(発病危険性)
100人に1人が発病危険率がある(一生において発病する危険率は0.75%)
数が多くポピュラーな病気
2.症状
1)陽性症状と陰性症状
陽性症状 → 幻覚、妄想
陰性症状 → 意欲減退、無為、自閉(自分の考えに閉じこもる)
2)思考の照合
内容の障害
妄想。受身の妄想"私が〜される"
症状が進むと世界没落体験、作為体験となる
筋道の障害
物事を考え始める時、収束して結論を出すが、分裂病の場合、考え始めると考えが拡散していく
(連合の拡散)
思考吸入(突然1つの考えがポッと出る)、記憶障害、自己決定がしにくい
3.経過
@: @の線で治っていかない。必ず休息期が来る。リバウンドの時期がある。
A: 再発しやすい。歴止性の減弱。
B: 注意サイン(具合の悪くなる時に出る症状)を知ることが、患者、家族、医師、看護者に大切。
注意サインは身体症状、精神症状など、人により違う。
C: ポストサイコーテックディプレッション。要注意の時期で、自殺の多い時である。
※ @の線で経過する患者も居る。→ 初発で、内服せず、再発した患者に新抗精神病薬(ルーラン、
リスパーダル)を初めから投与した患者に見られる。再発すると回復力の低下により治りにくく
なる。

4.障害
1)障害の3つのレベル
機能障害 : 症状、認知障害(2つ以上の情報が同時にあると混乱する)
↓↑
能力障害 : 体験の乏しさ(発病時期は10代〜20代が多いため)
↓↑
社会的不利
5.包括的な治療
1)薬物療法
2)リハビリテーション(特に認知行動療法、心理教育)
3)治療の包括性(脆弱性 − ストレス − 対処モデル)
@ストレスを減らす − 分裂病は対人関係がストレスになる
Aストレスを処理する能力を強くする − コミュニケーションをとれるように訓練していく
Bストレスに抵抗する力を補充する(薬物)
@〜Bの組み合わせを上手にする事により治療が良くなる。
Z.高齢者の痴呆 【講師:常盤台病院院長 清水 信】
1.高齢者(65歳以上)
1)記銘力低下
2)ど忘れ ←歳をとると必ず表れる
3)思考の回転が遅くなる
2.痴呆
正常に発達してから後(成人に達してから後)に起こった病的で慢性の知能低下の状態
3.痴呆の原因
いろいろな脳の病気や外傷
どの年齢にも起こりうるが、高齢期に最も多発
(加齢にともない脳の病気や血管障害が急激に増加するため)
高齢期人口での痴呆患者の出現率は現在のところ36.5%前後
4.痴呆の程度
軽 度:日常生活に殆ど支障のない者
中等度:日常必要に応じてある程度の手助けを必要とする者
高 度:日常生活に多くの介助・注意を必要とする者
5.高齢期の痴呆の原因疾患
脳血管障害(主として多発性脳梗塞)
アルツハイマー型老年痴呆
両者混合型
(この3つで高齢者痴呆全体の90%を占める)
6.痴呆は原則として回復不可能
血管性痴呆に対して予防策がたてられ、痴呆患者が示す精神症状、問題行動に対しても、ある程度まで精神医学的な治療や介護面の対策を講ずることができる。
高齢期に好発し、痴呆との区別(鑑別)が大切なものに、せん妄状態とうつ病性仮性痴呆がある。
1)うつ状態と痴呆の鑑別要点
| うつ状態 | 痴 呆 | |
| 不安、うつ気分の前駆 | + | −〜± |
| 症状出現までの期間 | 数週以内 | 数ヶ月〜1年以上 |
| うつ病の既往歴 | しばしば + | 原則として − |
| 表 情 | 不安、悲哀 | |
| 症状に対する悲観的訴え | ++ | −〜± |
| 場所の見当識障害 | −〜± | + |
| 質問に対する反応 | 「知らない」「忘れた」または沈黙 | 言い訳、または誤答 |
2)せん妄の診断上の留意点
@ 急性(数日以内)に起こった"ぼけ症状"は、まずせん妄と考えてよい
A 症状の浮動性(ことに夜間の悪化)
B 前駆期の発見:落ち着きがなくなる。神経過敏、応答の誤りやまとまりを欠く
(夜間看護師の報告、看護日誌が参考になる)
C 活動減少型の症状を呈することがある:日中ウトウトする。運動減少。無口。
D 原因の解明:血液生化学検査(血糖、電解質、BUN、肝〜腎機能)、胸部X線、ECG、脳波、
頭部CT、一般血液像、尿検査
[.薬物・アルコール依存症について 【講師:神奈川病院長 佐伯 彰】
1.定義
1)中毒とは
薬物の摂取により心身に害が生じた状態。薬物の摂取に自らの意志の有無は関係しない。
2)依存とは
人と薬物の相互作用によって生じた、薬物をやめようと思ってもやめられない状態。
@精神依存
薬物を求める心。薬物に対するコントロール喪失。薬物摂取を続けることで進行する。
A身体依存
薬物が体内(脳)に存在していて身体の安定が保たれる。切れてくると身体的苦痛が
生じる(身体的離脱症状)。
2.アルコール依存症
誰でもなる可能性がある病気(飲酒による脳神経のメカニズムの変化)
1)特徴
@ アルコールに対するコントロールの喪失(精神、身体、社会的なコントロールの喪失)
初飲−機会性飲酒−習慣性飲酒−依存症
A 進行性
B 病気の体質は一生残る(アルコールが体内に入ると「飲め」のスイッチが入ってしまう)
C 否認の病気(自分は病気でないと思っている)
D 本人だけでなく、家族も巻き込んでします
(アルコール依存症の患者の子供が、男性の場合アルコール依存症になりやすく、女性の場合
アルコール依存の夫を持ちやすい)
E 治癒はないが回復がある
F 回復には禁酒しかない
G 回復とはただ断酒していることではなく、人間性の回復
H 断酒して回復するか、飲んで死ぬかである
2)アルコール精神病(アルコール依存症で精神病症状をだすもの)
@アルコールてんかん
アルコールが切れて48時間以内、アルコール離脱期の一過性の発作
A振戦せん妄
アルコールが切れて48時間〜72時間以内
せん妄=意識障害+精神病症状(小動物幻視が一番多い)
Bアルコール幻覚症
アルコールが切れて早い時間
意識は清明。幻聴、包囲攻撃状況。
Cウェルニッケ・コルサコフ症候群(ビタミンB1欠乏による脳障害)
ウェルニッケ脳症:意識障害、運動失調、眼球運動障害
コルサコフ諸侯群:記銘力低下、健忘、失当識、作話
Dアルコール痴呆
脳神経がアルコールにより機能低下または死滅するが、1年くらい断酒すると痴呆とは違い
回復する。
Eアルコール嫉妬妄想
3.薬物
| 薬 物 | 解 説 | 中 毒 | 依 存 | 規 制 |
| モルヒネ・ コデイン・ ヘロイン |
ケシから得られるのがアヘン。さらにアヘンから抽出されたものがモルヒネとコデインで、モルヒネから誘導されたのがヘロイン。 | 中枢神経抑制作用、強い鎮静と陶酔作用を持つ。 多幸、無気力、傾眠、不機嫌、判断力低下、作業能率低下、社会的機能低下、瞳孔収縮など。 |
依存性はきわめて強い。離脱症状が激しく重篤。 アヘン類の渇望、瞳孔散大、不眠、流涎、下痢、悪寒、筋肉痛、発熱など、インフルエンザ類似の症状。 |
あへん法、麻薬及び向精神薬取締法。 |
| コカイン | コカは南米を原産地とする灌木“コカ”の葉から抽出されたものがコカイン。 | 中枢神経興奮作用。 多幸、興奮、社会的機能の低下、頻脈、瞳孔散大、血圧上昇など コカイン精神病では、精神分裂病様の症状、中止による反跳性のうつ状態がある。 |
身体的離脱症状はない。精神依存を引き起こす力は依存性薬物の中で最強。 | 麻薬及び向精神薬取締法 |
| 大 麻 | カンナビスという植物の樹脂に作用があり、葉、茎など全て切り刻んだものがマリファナ。樹脂を抽出したのがハシュシュ。 | LSD同様の幻覚剤。陶酔感、知覚の鋭敏化。 長期間使用で大麻精神病を発現。幻覚・妄想などの精神分裂病様症状や躁うつ病様症状をきたす。 |
身体依存はない。精神依存は短期間には形成されない。 | 大麻取締法 |
| 幻覚剤 (LSDなど) |
− | 幻覚や離人体験。 幻覚の世界で陶酔するだけではなく、不安やパニックから事件、事故を起こす。 |
身体依存はない。精神依存も弱い。 | 麻薬及び向精神薬取締法 |
| 覚醒剤 | アンフェタミン、メタアンフェタミンを中心とする薬剤。 | 中枢神経興奮作用。 急性期には、爽快、気分高揚、焦燥、知覚過敏、不眠、頻脈、振戦、せん妄、錯乱 反復作用で精神分裂病様の覚醒剤精神病。使用中止で反跳性のうつ状態。 |
精神依存は強く、耐性の形成も早い。 | 覚醒剤取締法 |
| 睡眠薬・精神安定剤 | − | 中枢神経抑制作用。バルビツール系は昏睡から死に至りやすい。 | アルコールと類似の依存や離脱症状を示す。 | 麻薬及び向精神薬取締法 |
| 有機溶剤 | シンナー(薬物依存の窓口といわれる。脳内に達すると脳の後遺症を起こす。)、ボンド、トルエン。 | 酩酊、麻酔作用と幻覚作用。 長期使用で性格変化、人格障害や有機溶剤精神病をおこす。 |
依存性はそれほど強くなく、乱用の段階が多い。 有機溶剤依存症に進行してからの有機溶剤脱却は困難。 |
毒物及び劇物取締法 |
4.薬物依存症からの回復
身体依存は薬または時間が解決してくれるが、精神依存の回復は難しい。
1)薬物療法
2)精神療法
3)自助グループ(断酒会など)
\.精神科看護の実際 【講師:神奈川県立看護教育大学校附属看護専門学校 内山 繁樹】
1.精神障害の観察 −精神科における観察の意義と重要性−
1)情報の共有化
観察したことを他者に説明できる能力を養う。
感覚を言語化する。五感を大切にする。第六感も必要である。
2)数値で表せない精神症状の特徴
検査データでは表せない。
患者の言葉、様子などを客観的に観察する。
言語や行為の意味を理解する。
3)症状の訴えがない
病識の欠如。
多様な形での訴え。
身体の自覚症状もうまく訴えることができない。
(観察力が看護者のカギになる)
4)対人関係障害
引きこもりによる社会性の障害 → 心の中で孤独感を感じている。
医療者を選ぶ患者 → 患者により、看護者に対し話しをできる者とできない者がいるので、
チームで役割分担し看護する。
5)参加観察の重要性とその全体像
援助観察やレクリエーションの中での患者の思わぬ能力の発見。
1つ1つ観察したことを組み立て、患者の全体像をとらえていく(現在の症状だけでとらえない)。
※観察に始まり観察に終わる。
2.精神症状の急性期と慢性期の特徴
1)急性期症状と看護
急性期症状の観察ポイント
@服装:奇異な服装、派手な装飾、身辺の乱雑さ
A言動:サイン的な言葉、妄想対象の固有名詞
B睡眠:不眠、入眠困難、早朝覚醒、昼夜逆転
C身体的症状や訴え:多訴、不安、こだわり、便秘など
2)急性期患者への対応
@急性症状
激しい幻覚:独語、空笑、易怒生、泣く、奇異行動
激しい妄想:笑う、泣く、暴言、暴力、奇異行動、不安、多訴
滅裂思考
自傷他害 :興奮、衝動行為、自殺企図
拒薬拒食
水中毒 :多飲、もうろう状態、ショック状態
A鎮静のための対応
原因疾患の症状の除去、または軽減。
興奮の理由を理解する努力をする。
冷静に穏やかに一貫性のある態度で接する。
現実(時間、場所、人物など)を認識させるように働きかける。
B一般的な対応
話を聞く
肯定も否定もしない
聞く姿勢と言葉遣い(敬語)
看護師としての意見、指導、制止、態度
作業やレクリエーションの活用
納得と同意をしたうえでの処置(注射、服薬など)
2)慢性期症状と看護
観察のポイントは急性期と基本的に同じであるが、日常化した入院生活の中での「日常生活援助」
が看護の中心となる。
@慢性期患者への対応
「一般的な対応」と同様。
3)精神科における援助的コミュニケーション
患者・看護者関係を展開するうえでの傾聴、受容、共感的理解の重要性やコミュニケーション
技術が必要
@コミュニケーションにおける観察
意味不明な言語、理解不能な行動様式、無為、閉じこもりなど、どんな方法をとろうとも、
「人」はコミュニケーションをしないでいることはできない。
コミュニケーションは意思や欲求、願望の伝達であり患者はなんらかの形で明らかになった、
あるいは無意識のニーズをメッセージ化している。看護者は、患者とのコミュニケーションを
通して、それらを理解していく。その際、患者が表現している内容とともに、感情や内的世界を
理解していく観察が大切。
A能動的活動としての「積極的傾聴」から始まる
a) 誠実で率直な態度(良き聞き手になる)
b) 相手を尊重する態度(評価的な態度をとらない)
c) 隠れている健康面やポジティブな側面など、対処能力などを信じる態度
d) 表情、姿勢、態度、整容(非言語的)等のメッセージに耳を傾ける
e) 一貫した態度(言動が一致している)
→ 看護者の一貫性のある態度によって、患者は安心して感じていることや望んでいる
ことを表現することに動機づけられる。
f) コミュニケーション・スキルの活用
・オープン・クエスチョンに心がける
・「今、ここで」に焦点を向ける。
相手の顔を見て、その人に直接話す。
相手の言動を直接そのまま描写する。
自分が今感じていることを言動や動作に表現する。
3.精神障害者の社会参加に向けた援助
1)入院時から始まる「社会参加」に向けた援助
急性期、慢性期を問わず、日常生活援助とは患者個人の社会参加を目指したもの
2)服薬管理の定着
退院後、服薬の自己管理が確実に行えるように指導し、薬の必要性などを理解させていくことが
必要。
3)病棟でのレクリエーション
普段と違う患者の様子や思わぬ能力を発見したり、社会の中での患者の隠れていた能力を確認
する機会になる。
4)代理行為と管理
自己管理ができない場合、看護者による代理行為があるが、トラブルを防ぐため、一貫した職員の
対応と複数による確認、患者本人の確認をとることに留意する。(患者本人が確認できない場合、
家族に了承を得ることが必要)
5)家族関係
患者の意見に加え、家族の意見も聞き入れていかなければならない。
家族と連絡をとったりしながら看護者と家族の信頼関係を築いていく必要がある。
6)訪問看護
].グループ討議と全体討議
・ 患者さまに対してマイナス感情を持った時、チームで共有していく。一人で悩まない。看護に悩んだ
ときは、もう一度患者さまを理解するようにし、訴えを聞く姿勢を持つ。
・ 良質の病院経営ができていなければ、良い看護・医療ができない(一人一人がコストを考える)。
・ 抑制について、車椅子の安全ベルトなど、看護者がなぜ必要か考え、抑制を少なくする方向へ
もっていく。
・ 退院できない患者さまが多い(家族の受け入れ拒否のため)。入院時より家族とのかかわりをもつ。
入院時より退院へのマニュアルを病院で作っていく。
・ 傾聴。訴えの多い患者さまに時間を区切り話を聞くなど、看護者それぞれの工夫で看護していけば
良いのではないか。
・ 患者さまと看護者の人間関係が成立していれば"しかっても良い"。怒るのではなく叱る
→教育的なこと。
・ 患者さまへの対応には受容・見守りが必要。看護者が統一された態度で接する。第六感も看護には
必要である。
・ 患者さまの社会参加 → 院内で自立していても、社会では自立できない患者さまがいる。
日常の入院生活の中で、社会で生活していけるように関わっていく。
・ 老人病院で、転倒により大腿部頚部骨折によりADLの低下が見られる者は、安全面を考えれば
車椅子抑制をした方が良いのではないか。抑制の時間を1時間毎に解除するなど心掛ければよい
のではないか。
以上の内容が検討されたが、明確な結論は出なかった。
感 想
4日間の研修に参加し、改めて各疾患や看護について今までの知識の確認ができたと同時に、新しい知識を学ぶことができました。これら学んだことを基礎として、"看護は観察に始まり観察に終わる"と言われるように、患者さま各々の観察を十分に行い、傾聴し、第六感を働かせ、より良い看護を行っていきたいと思います。