
第三者が病棟内でボランティアとして介入する「病院ボランティア」。最近では多くの病院がボランティア受け入れに稚極的に取り組んできている。では,それは看護の質にどう貢献できるのか。ボランティアが病院に根付いている病院を取材しました。
●はじめに
地域社会に開かれた病院であるかを評価する一つの指針であり,病院のサービス向上に寄与する可能性のあるものとして,ボランティアの受け入れへの関心は高まりつつあります。全国の病院ボランティア活動グループの支援を目的に設立された「日本病院ボランティア協会」(2000年特定非営利活動法人に承認)に,施設や団体が加盟している施設,団体は現在およそ180。紹介されている活動内容は非常に多いのですが,実際にはまだ,外来での声かけサポートや花の手入れなどに留まるところが多いと感じます。
安全や感染の問題,第三者が入ることへの抵抗感,あるいは患者のプライバシー保守を危惧する声などもあります。また,受け入れたくても体制が整わない,受け入れてはみたもののその位置付けや役割が確定できず,十分に活用しきれていないケースもあるようです。では,どのような受け入れ体制を整えれば,「病院ボランティア」をうまく活用でき,サービスの向上,さらには看護の質の向上に貢献することができるのでしょうか。ボランティア導入を積極的に進める川崎田園都市病院を訪ねてお話しをうかがいました。
■ボランティアの受け入れにあたって
積極的に取り組む院長のもとで
「病院ボランティア」の受け入れを先頭に立って進めるのが,椎名美純院長である。病院の理念として掲げるのは「人生の大先輩であるお年寄りの方々が,暖かい家庭的な雰囲気の中で安心して療養に専念できる病院」だ。ボランティアを積極的に受け入れる理由について,椎名院長はこう語る。
「地域からボランティアを受け入れることは『開かれた病院づくり』に,もちろんつながりますし,患者さまと病院の距離を縮めるパイプ役としても,ボランティアには期待ができます。また,第三者の目があることは,職員の意識向上や院内の活性化にもなります。弱い立場の患者さまにとっては,安らげる療養環境を提供できることもあるでしょう。けれどもそれ以上に,人間社会は共同社会。お互いに支え合うことから生まれる安心感を病院に根付かせるといった考えが根底にあります」と。そして,院長が強調するのは「人手が足りないからボランティアで補うというのは間違いである」。この椎名院長の揺るぎない信念がバックグラウンドとしてある。
■ボランティアの受け入れ年制は...
受け入れのきっかけと,今日にいたる経緯
川崎田園都市病院が,新しいボランティアの受け入れを始めたのは,平成13年に病院がオープンした直後のこと(病院ボランティアの実践は19年に及ぶ)。きっかけは,地域のミニコミ誌に「老人介護講座」と「ボランティア講座」の開講の告知を出したことに始まる。この講座に集まった12,3人のうちの5,6人が,現在,当院で活動しているボランティアグループの一つ,「いーなの会」の核となっている。「いーな」とは「こんなボランティアがあったらいいな」から付けられたものだ。
メンバーは定年をむかえた男性や主婦が中心だが,若い学生や社会人も入れ代わり立ち代わり参加し,患者の散歩介助,ロビーコンサートなどの会場への搬送,おむつたたみ・ガーゼたたみなどの衛生材料の整理などや,ボランティア自身が得意なことを生かす形で,フラワーワーク,お茶会,メイク,アロマテラピーなどの活動がある。活動グループは「かわでんボランティアの会」と称し,活動している人の紹介や,ホームページなどを見た人が集まり,徐々に活動の分野が広がってきたものだ。
ボランティア受け入れにあたっては,受け入れ委員会のような組織は特に設けていない。実際の受け入れでは,まず院長と看護部長による面接が行われる。面接の段階で,例えば多少,身体的に活動に無理があるような場合も,その人に合った活動場所や範囲を決めて,なるべく受け入れる方針で,希望を聞きながら,どんな活動に参加してもらうかなどが考慮される。
その後の窓口となっているのはボランティアコーディネーター。かつては看護部長の星野マスヨさんがコーディネーターを兼任していた。現在では,院長秘書である大迫桃子さんが兼任している。コーディネーターは,ボランティア活動を管理,運営するカギとなる存在だが,どんな立場の者がやるとよいのだろうか。
星野看護部長は「病院内の組織や実情,患者の現状,そして,ボランティアがどういったものであるかを理解している者がよい」「ボランティア希望者に何をしてもらうかを決めるときにはある程度,病院内の実情に詳しいことが求められます。看護師兼任であれば管理職がよいでしょう。ある程度の決定権もあり,患者さまの現状を把捉しているという意味でよいと思います。大迫は院長秘書でもあるので,院長に情報をすぐ流せるのがいいですね」と言う。

「かわでんボランティアの会」に登録しているのは現在,約50名。会の活動を発信するツールとして,今年1月より「ボランティア便り」を毎月発行。ボランティア専用のホームページ(URL:http://www.e-volunteers.net)も立ち上げた。お互いの活動内容を知ったり,情報交換の場になっている。
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■ボランティアに委ねるための準備...
やってもらうことは,下準備を整えて安全第一で

「いーなの会」の活動は様々だが,その日,木曜日は2階の談話室ではタオルをたたんでいた。衛生材料の整理などの仕事の内容は,「許せる範囲のもの」,例えば「ガーゼたたみ」では,清潔管理が必要なものは職員がやるべき,ボランティアはそれ以外,多少曲がったりしていても許されるものを扱う。それにしても作業を頼む場合は,ナースがたたみ方などサンプルを用意し,使う道具なども揃えてから渡す。こうした下準備を整えることは,むしろ現場のナースの「面倒な仕事」にはならないのか。
看護師長の石山節子さんは,「現場からそういう声は出たことはありません。例えば口腔清拭ガーゼ。お年寄りは呼吸器疾患にかかっている率が高く,またスムーズに自力で疾を出すことも困難です。そこで吸引したり,排疾の助けのためにこのガーゼが必要です。30cm大のガーゼを7.5cm角にたたんだものがとてもたくさん必要なのです。以前は夜勤時にケアワーカーがたたんでいましたが,今はロールガーゼを一定の大きさに切って準備しておき,たたむ作業をお願いしています。勤務帯に余裕ができました」。もちろん,ボランティアの仕事に依存することはない。「ボランティアは労働力を補うものではない。という意識はスタッフには根付いています」と言う。
「いーなの会」のメンバーがタオルをたたんでいる談話室の入り口ドアは全開されていて、部屋では4人のボランティアと患者家族,さらに患者さんが雑談をしながら作業をしていた。
一緒に手を動かしながら,「今年は台風が多いね」「昨日の地震はすごかったね」など,何げない日常会話が交わされる。誰でも自然と話の輪の中に加われて,退室も自由だ。雰囲気はなごやかで,部屋の一角で仕事中のスタッフも顔がほころんでいる。通りかかった看護部長も座って手を動かしながらしばらく話しに加わる。
スタッフにとっても,そこはほっとする場なのだ。そこにいた患者さんは,「毎週ここで,外の人と交わす何気ない日常会話が嬉しい。早く治そうという励みにもなるんです」と。
ボランティア自身にとっても,活動が自分の生活の中における楽しみの一つになっているという人も多いようだ。
同時に行われている3階のフラワーワークの部屋も同じである。参加する患者は18〜20人くらい。身体機能に障害があるが認識度はある方,手など身体機能はあっても認識度が低い方,痴呆の方,と状態はさまざま。そこも大きなガラス窓で,通路から中が素通しの食堂兼談話室。なぜ患者全員が集中できて楽しい場になっているのか...なんと言ってもボランティア自身が楽しんでいる。ボランティア,レクリエーションワーカー(レクワーカー)が,患者に楽しんでもらいたいと本気でやっているから,患者も引き込まれていく。廊下を歩く家族や看護師も立ち止まり,引き込まれて笑みがこぼれる。
ワーク,療法というと訓練の印象であるが,ボランティアが介在することによって,これが遊びの場になる。最後に自分の作ったアレンジを大切に抱えて車イスで病室に帰っていく男性の患者さんの姿が印象的だった。
■ボランティアの教育はだれが...
自主的な学び合いがあって,それをサポートしていく

スタッフとボランティアの連携が大変うまく機能しているものに「ロビーコンサート」がある。これは月1回,催されるコンサートで,開院当初から行われているもの。
出演者は一流の演奏家だが,こちらもボランティアだ。毎回約40〜50名の患者が参加する大掛かりなイベントなので,関わるスタッフも多く,スタッフの役割分担が明確にされていて,前から綿密な計画のもとに進められていく。
演目内容は約2〜3ヶ月前には確定し,実務の指揮をとるのは病院スタッフのレクワーカー。患者の好みや,出席回数・内容が重ならないよう配慮して出席者を選び,安全管理を考えて,患者の配置を考えた図にする。当日はその図をもとに床にテープをはり,スタッフ,ボランティアが決められた場所に患者を搬送,配置する。ただし,患者をベッドから車イスへ移動させるときなど,危険を伴うところは必ずスタッフが行うように徹底されている。ナースは,イベント前に参加する患者の排泄介助をすませ,最中は患者を見守る。病棟では看護が手薄にならぬよう,当日は多い人員を出勤させている。イベント予定が早くでるので,勤務調整も難しくはなく,メンバーも協力的であるとのこと。こうしたノウハウは,やりながら,少しずつ出来上がってきた,と星野看護部長。
「やはり患者さまに喜びを与えられるということですね。音楽を聴く前と後では表情も違います。なるべく大勢の患者さまを出してあげたい,でも,それにはマンパワーが要ります。スタッフだけでは無理なことも,ボランティアの協力をいただくことで可能になりますからね」と,準備は大変でも,それでもやる価値は,やはり患者さんの明るい表情だと言う。

ところで,ボランティアヘの教育や安全管理について,どのような対策が行われているのだろうか。最初に,面接の際に渡すという「ボランティア活動の栞」には,
・華美な服装やアクセサリーはしない…
・宗教活動はもちこまない…
・患者のプライバシーは守る…
等々,患者に接する基本的な注意事項やボランティアの役割がまとめられている。
「今までこれらのことで問題になったことはなく,「それは常識」と認識されている方が来るので,問題になったことはありません(石山看護師長)」と。コーディネーターの大迫さんはボランティアを「高い意識,社会性をもっている方,と感じます」とも。
ボランティアの活動風景を見ていると,ボランティアに頼む範囲と,職員がするべきことの区分けが徹底されており,ボランティアと患者は1対1にはならず,いつも複数の目で見守る体制ができているのを感じる。これが自然に,安全管理につながっているのではないだろうか。
さらに,ボランティアの意識を高めている方策としては,ここでは,ボランティア同士の交流がある。
ボランティアの会の核となっている人たちを中心に,ボランティア同士の風通しがよく,まとまりがある。イベント後や定期的にボランティア主催の勉強会(院長いわく「みんなでお茶を飲むだけ」)が行われるが,気づいたことがあれば,自由に発言できるような雰囲気で,時には院長,看護部長も参加することがあるという。ボランティアからの希望もあり,この時間を利用して,車イスの操作のレクチャーが開かれたこともある。必要なことは,その都度,俊敏に指導が行われる。それは,この場だけに限らない。一廊下でスタッフに立ち話で伝えられるというように,スタッフとボランティアとの壁がない。「あら,今日は園芸なの?」といった気軽な声かけがエレベーター前でも見られた。
また,コーディネーターが編集人の,ボランティア体験や活動内を伝える「ボランティア便り」。月1回のニュースペーパーが,ボランティアの意識を高める役割も大きいといえる。

■ボランティアの効用...
看護の質の向上への貢献度は大きい
では,ボランティアが実際に活動することで,どんな効用があるのだろうか。最も大きいのは,やはり患者にとってのサービス向上という点だろう。星野看護部長は,「ボランティアに作業を頼むことで,ナースがベッドサイドに行く時間が増えました
。また第三者の目に触れるということで,院内,ステーションをいつもきれいにしておこうという意識もあります。姿勢を正す意味でも効用はありますね。また,患者さまに寂しい思いをさせているのではないかという負い目もあるのですが,ボランティアの方が補ってくれることで,私たちの気持ちも少し軽減されます」と話す。
石山看護師長は「イベントに参加するということだけでなく,日常的にきめ細かくかかわることができることで,明らかに患者さまの離床時間が増えています。それは身体機能のアップにもつながっているでしょう。患者さまとかかわる中では,状態の細かな観察ができて,ご家族への情報提供もより分かりやすく具体的にできます。また,先日のお花の会では,とてもうれしそうな表情でしたよ。といった様子をお話することで,では次はいっしょに参加してみようか,とご家族にとって病院がとても身近で訪問しやすい場所になり,面会回数や時間が増えて。これは患者さまにとって,うれしい効用です」と語る。
また,ボランティアからの話しかけも,患者さんには刺激になっている。女性の患者さんだと男性ボランティアが,男性の患者さんだと女性ボランティアが声をかけると喜ぶのだとか。
スタッフのメンタル面でもいい影響があるようだ。石山看護師長は「心も体もゆとりのあるボランティアの方たちがいてくれると,ナース自身もゆとりを学んでギスギスしなくなります。ボランティアの方たちは社会人としても目標にしたい方たちです」。
星野看護部長も,若いナースが「ものを知るようになった」と言う。「花の名前や収穫方法など,知らない者も多いのですが,ボランティアからいろいろと教えてもらっているようです。いろんな意味でボランティアさんから学ぶべきことは多いですね」。
■ボランティアの可能性…
これからの課題,期待,生かし方
新しい人がなかなか集まらないという悩みはここにもある。新しい人を集めるためには,今後,外への働きかけをもっと充実させていくことが必要だと大迫さんは感じている。
また活動内容についても,今後,新しい分野の開拓が期待されるところだ。
星野看護部長にその点を尋ねると「お散歩隊のようなものがあるとよいと思います。どうしても業務に追われるので,多く患者さまを外にお連れするのは難しい。そういうときに,時間を決めて一緒に車イスを押して出かける散歩隊がいてくれればと思います」と。
また,生活機能訓練室が空いている時間を利用して,一緒に料理をつくるといったボランティア活動もあるとよいのではないかとも考えているそうだ。
「リハビリ効果も期待できます。人手が足りなくてできないことも,ボランティアの手を借りることで,可能性が広がると思いますね」と,語る。
基本的にはボランティアは無償が前提とはいえ,場合によっては,交通費諸々など心情的にも出費は避けられないことはある。
椎名院長は「成長する喜びは人間の本性。患者さんから感謝される喜びもあるだろうけれど,ボランティアをやると勉強させられることがたくさんあります。ボランティア自身も成長できる喜びを味わうことができる。それを考えると,可能性はまだまだある,受け入れる側の喜びも大きいのです」と話す。
ここでボランティアが主体性をもって活動をしているのは,スタートからそれができる土壌づくりを病院職員全員が取り組んだことが大きいだろう。よい土壌で育った芽は大きく育つ。ボランティア導入に躊躇せざるを得ないさまざまな問題もあると思うが,受け入れる側が本気で患者のことを考えると,知恵や方策が出てくるものだ,と感じた取材であった。
●おしまいに…

病院の規模や特性によって,こちらと同じようなボランティアの受け入れは不可能だと思いますが,患者の立場にたって,こんなのあったらいーな,とシンプルに考えてみると,この施設の取り組みから学べることは,いくつかあったのではないでしょうか。自分たちの病院に合ったレールの敷き方については考えてみる価値はありそうです。それにより,病院ボランティアの間口はもっと広がり,仕事もラクになり,院内の風通しもよくなるのですから。
ボランティアさんに聴く
「いーなの会」会長岡本東栄さん(左)と総務・寺山泰郎さん(右)

「いーなの会」の核となるメンバーの二人で,会の活動を外に発信するために,会長,総務と便宜的に役割を冠しているそう。病院がオープンして半年ほど,ロビーコンサートに来たことがきっかけでボランティアとなり,それからずっと活動を続けている寺山さん。寺山さんがボランティア活動をするとき,一番感じているのは,「楽しくなければ続かない」ということ。
「労働力の補充としてボランティアを考えているところも多いと聞きますが,それだけでは,『やらされている』感じがして,やはり長く続けるのは難しいと思います。ボランティア活動を意義あるものにするには,ボランティア自身も,自分の暮らしの中でどう生かすのかが明確でなければ,長続きしないと思いますね。また,病院側もボランティアをどう生かすのか,明確でなければ,うまくいかないのではないでしょうか」と。
寺山さんは,活動中に気づいたこと,学んだことなどがあれば,それを原稿にまとめて「ボランティア便り」に寄せている。拝読すると,寺山さん自身が,お年寄りと接する中で,さまざまなことを教えてもらったり考えさせられたりして,それが活動する活力の元にもなっていることが伝わってくる。
フラワーワークボランティア代表・早坂美佐子さん

フラワーワークのボランティア活動を続けている早坂さんは,療育音楽のセッションリーダーの資格をもち,定年後,非常勤で別の病院勤務を週3回勤務する看護師。ここでのボランティア活動は,その合間をぬって行っている。
花材に触れるれる前に,花や季節にちなんだ歌を数曲うたい,手を動かす体操も取り入れている。お年寄りの場合,白内障の人も多いので,黄や赤などの鮮やかな色のものを選ぶといった看護師ならではの配慮がある。歌の誘導も上手く,1時間のプログラムは非常によく構成されている。患者さんをあきさせない工夫は,実際に失敗の中で体得してきたという。
「ご老人は,こちらの接し方でだいぶ反応が変わります。最初は反応がない方でも,やさしく接すれば,必ず反応が出てくるんですよ」患者さん全員の名前をあげながら,挨拶や出来栄えの評価。歌の最中は,ほかのボランティア(この日は2人)とレクワーカーが,患者さん一人一人の肩をふれながら,マイクを回す。無表情だった患者さんも,しだいに楽しげな表情になる。ボランティアを続けられるのは「やはり,患者さんの喜んでくださる顔が見たいからでしょうね」とそれ以上の笑みで話す。
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